雑誌名は忘れてしまったが美術作家、荒川修作が岡本太郎のエピソードを語っていた。
荒川が20代前半の頃、岡本太郎がスキーで足を骨折したので青山の岡本邸に見舞いに行った時の話だった。当時、金のなかった荒川がパンジーの花を買って行き、それを手渡した瞬間、岡本太郎は「ワーッ」と大きな声で泣きはじめた。「男から花を貰ったのは初めてだ」と。そして、すぐに「お返しをするから」と言ってショパンのピアノソナタを泣きながら一時間ほど弾き続けていたという。
この記事を読んだ瞬間、私の眼には涙が溢れ、止まることなく頬を伝わった。
自分でも一体何が起きたのかわからなかった。あまりにもショックだった。
男から花を貰い、その嬉しさに涙を流すほど、純粋で、素直で、感受性に富む、
そんな人間がこの世にいることに感動を通り越し、魂が震えた。
社会は岡本太郎の奇抜さだけに目を向け、マスコミもその部分のみを楽しんできた。
この国には彼の思想哲学を受け入れるだけの芸術文化の土壌が用意されていなかった。
彼の残した作品は絵画、彫刻に限らず著作に至るまで、全てのものが時空を越えて存在し、決して色褪せる事はない。それは岡本太郎自身が普遍的価値そのものであったことの証明だと思う。
特に彼の綴った文章は、論理的思考の中から生まれた情熱的抑揚と時には抒情詩的なリズムまで持ち合わせる。何て小気味よく清々しい文章なのだろう。是非多くの人に知っていただきたい彼の一面だ。
(お薦めの一冊:今日の芸術 今から50年前に刊行されたとは思えない太郎的芸術論)








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