クラス会も一時間を過ぎると最初の緊張感も薄れ、当時の懐かしい雰囲気が蘇えってくる。そうなるとお決まりは、思い出話や暴露話。中でもM君は、どうして?と言うくらい、どうでもいいことやこちらに都合の悪いことをよく覚えている。彼の断片的記憶は他の友人の断片的記憶を呼び覚まし、しまいには皆の記憶と連鎖し、大爆笑物語になってしまう。だからM君が個人名を挙げた時はちょっと注意だ。そのM君が、クラス会の盛り上がりもピークに達した時、S嬢の話題をし始めた。S嬢は学内の誰もが認めた才色兼備、現在は政府の仕事をするバリバリのキャリアウーマンだ。40を過ぎた今でも美しさは全く衰えていない。
M君は話し出した。「今だから言えるんだけど、実は俺Sのこと好きで、放課後誰も居ないときにSの“たて笛”舐めたことあるんだ。とても幸せだった・・」(※当時僕たち全員は音楽の授業に使う“リコーダー”を持ち帰らずに机の中に置いていた。)男子の爆笑と女子のブーイングの中で今度はT君が「実はおれもさ・・」と言うと、向こうのほうでは「エーッ!おれなんかリコーダーの頭ごと取り替えちゃったよ・・」こんなせりふが出たらもう止まらない。M君はひきつった顔で「もしかして俺、お前の笛を・・」と他の実行犯を罵れば、また周りは大爆笑、白い目で見ていた女子ですら大笑い、するとあちこちで「なんだお前らもそんなこと・・そうとも知らずに・・」などと至るところで懺悔の嵐。あまりにもおかしすぎる出来事に当のS嬢も困惑気味の顔がいつのまにかお腹を抱えながら涙を流して笑っている。何ともくだらなく平和な光景、40を過ぎた大人たちの無邪気な顔っていいものだ。クラス会もお開きになり、車で来たため酒を飲まなかった私がS嬢を送ることになった。彼女は前回のクラス会の時も私が送ったのを覚えていた。「そう言えば、昔からいつも帰りは一緒だったね」と彼女が言った。彼女が同じクラブのマネージャーで帰る方向が同じだったこともあり私たちはよく一緒に帰った。私が「君の片付けの段取りが悪いから手伝うとそうなるんだ」と言うと、「本当は一緒に帰りたかったくせに」と相変わらず口が減らない。無事、自宅に到着し、彼女が車から降りようとした瞬間、振り向きざまに「私のリコーダー・・・舐めた?」と笑顔を浮かべた。私は彼女に負けないくらいの笑顔で「もちろん・・」と答えた。


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