あれからぼくたちは 何かを信じてこれたかなぁ・・・
夜空のむこうには 明日がもう待っている

小学生の頃、自宅に風呂のなかった僕とO君は、毎日のように夜空の星を眺めながら銭湯に通った。
夜空を見上げては輝く星の向こうの世界、“無限なる宇宙”に思いを寄せてはあれこれ想像するのが楽しかった。僕たちは中でも12月の星が好きだった。冬至も近づくと陽は短くなりお目当ての星は早くあらわれ、澄んだ空気がその輝きを一層引き立てた。そして夜空を見上げながら話し続けるO君の目はその星たち以上に光り輝いていた。
学校でのO君は物静かで女の子と目を合わすことさえも苦手なシャイな少年だった。
そんなO君だが星の話をする時は違った。クラスメートはそのギャップを面白がり、当時の漫画、「巨人の星」に登場する主人公の父の名をなぞらえ、「星一徹」と彼を呼びからかった。
O君にとって僕と過ごす銭湯の往復は、彼が彼らしくいる、唯一の時間だった。
やがて卒業を迎え、僕たちが一緒に銭湯に通うことはなくなった。僕は星の代わり夕暮れのグラウンドで白球を追いかけた・・。
O君と再会したのは大学受験も間もない頃の同窓会だった。O君は僕を見つけると真っ先に駆け寄り、挨拶も忘れてあの懐かしい銭湯の往復の日々、そしてあの時見た星空の話をし始めた。気の悪い友人は「まだお前たちそんなことを・・」とからかうものの、僕はO君があの時のO君でいることが何よりも嬉しかった。
それから20年、またクラス会の案内が届いた。そしてその案内の中には彼が参加することも記されていた。
O君の噂は既に聞いていた。彼はこの日のためにアメリカからやって来る。宇宙物理学の権威としてNASAで働く彼にとって15年ぶりの帰国だという。指定されたホテルの宴会場に入ると僕は真っ先にO君を探した。すると後ろから誰かが肩を思い切り引っ張った。
O君だった。隣にはブロンドの髪とブルーの瞳の美しい女性が立っていた。
やっぱりO君はO君のままだった。再会の喜びも束の間、話は既にあの時の夜空の星へと替わっていた。
ワイフの紹介さえも忘れて・・。

今ではもう誰も彼を揶揄するものはいない・・
その晩、僕たち3人が肩を並べて夜空の星を眺めたのは言うまでもない・・・

〜後日、母校でのO君の講演からの抜粋〜
人間誰だって皆不安です。今やっていることが正しいのか、ものになるのか・・
でもそんなことどうでもいいんです。好きなことをやっているなら自分がどんな生活をしようと、絶対に人を羨むことなどありません。好きなことを見つけられることが何よりも素晴らしいんです。そしてひたすら続けること、続ければいつか必ず形になります。とにかく続けることなんです・・。


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